振り飛車党の頭の中5

2026-06-09更新
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監修
北尾まどか
日本将棋連盟 女流棋士二段 / 株式会社ねこまど 代表取締役
「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに2010年に株式会社ねこまどを設立。将棋教室や将棋イベントを開催している。 こどもや初心者に将棋を教えるための教材としてして開発した「どうぶつしょうぎ」で、園や学校・学童などの教育機関にて普及活動を行っている。

「手に乗ってさばく」感覚

今回は受け流しの考え方を紹介しましょう。題材は三間飛車対居飛車急戦の一場面です。



第1図

 図の△6五歩は最速ともいえる居飛車の仕掛けで、角交換から△8六歩の筋が基本の狙いです。ぶつかった歩を取るのが怖いからとたとえば▲5七銀とするのはまずく、以下△6六歩▲同銀△8六歩▲同歩△6五歩▲同銀△7七角成▲同飛△8六飛(参考図)と進むと早くも後手有利。

参考図

 参考図からは▲8七歩△8二飛のような展開が予想されるものの、▲6七飛には△6六のタタキ(▲同飛に△8七飛成)があるためなかなか先手は飛車がさばけないのがネックとなっています。

 ということで第1図では▲6五同歩が正着。

【第1図からの指し手】

▲6五同歩△8六歩 ▲同歩△5五歩

▲同歩  △7三桂(第2図)

第2図

 3つの突き捨てをすべて取って迎えた第2図が分岐点。次の△6五桂は部分的には受からない形で、先手の角が動けば後手からの△8六飛が狙い筋として生じます。①▲6七銀は指してみたくなる手ですが、どうでしょうか。

【第2図からの指し手①】

▲6七銀△6五桂 ▲5九角△5五角

▲6六歩△5六歩(参考図)


参考図

 ▲6七銀は次に▲6六銀(▲5六銀)と上がって桂跳ねを防ぐ意味ですが、これは一手間に合っていません。かまわず△6五桂と跳ね出すのが気持ち良い一手で、▲6六角ならかねてからの狙い△8六飛を実現されてしまいます。▲5九角と右側に引くのはやむを得ない手ですが、しばらく進んで△5六歩が継続の好手。▲同銀には△6六角とさばかれておたがいの角の働きには大きな差がついてしまいました。こうなると振り飛車側には主張点があるとは言えそうにありません。

【第2図からの指し手②】

▲8八飛 △6五桂 ▲6六角 △5六歩(参考図)

参考図

 ▲8八飛と回るのは現実的な受け。桂跳ねが受からないなら△8六飛を防いでしまおうという意味合いです。しかしこれも適切な受けとは言えず、桂跳ねから垂れ歩のコンビネーションで先手は銀桂交換の駒損が確定してしまいました。

 参考図からだまっていると△5三銀~△6四銀~△5五銀という角いじめの筋があるうえ、やむを得ず▲6七金と催促してもそのタイミングで△5七歩成の筋を決行されて先手不利。以下は▲同銀△同桂成▲同金△6五銀という要領でやはり角をいじめられてしまいます。


再掲第2図

 第2図に戻ります。適切な受けがなく困ったようですが、ここは第3の指し手が正解になります。

【第2図からの指し手③】

▲5四歩(第3図)

第3図

 桂跳ねも飛車走りも受けずに▲5四歩と角筋を通すのが効率的な一手。相手の狙い筋を直接受ける手はないと見て、受け流しの方針を取るのが振り飛車党的なさばきの考え方です。居飛車はそれでも桂を跳ねてくる手が予想され、先手は再び分岐点を迎えます。

【第3図からの指し手】

      △7七角成 ▲同銀△6五桂(第4図)

第4図

 角のさばきが完了して一段落。今度は飛車のさばきが課題になってきます。銀取りがかかった第4図では①▲6六銀、②▲8八銀など銀を逃げる手が目につきますがそれでよいでしょうか。

【第4図からの指し手①】

▲6六銀 △8六飛 ▲8八歩 △5七歩

▲5九金引 △6七角(参考図)

参考図

 ▲6六銀はもっとも素直な手ですが、やはり飛車を走られたときの対処が難しい。△5七歩に対して▲6七金には△4五角▲6八歩△8七歩とされると▲6五銀に△6六歩が生じるため先手陣は崩壊します。▲5九金引としても△6七角と打たれ、双方の飛車の働きは大差です。

【第4図からの指し手②】

▲8八銀 △5六歩(参考図)

参考図

 ▲8八銀とこちらに逃げるのは8筋を守った意味ですがはっきり利かされ。今度は△5六歩と中央に垂らされると先手の左銀はまったく働きのない駒になっています。これも失敗。

【第4図からの指し手③】

▲6八飛 △7七桂成 ▲同桂 △8六飛

▲9五角(参考図)

 第4図で▲6八飛と回る手は筋よい好手で正解の一つ。しばらく進んで▲9五角と打った参考図ははっきり成功で、以下△8二飛には▲8三歩、△8九飛成には▲6二角成からの二枚換えを実現して先手優勢です。


参考図

 参考図を見るとわかる通り、先手は相手の飛車さばき(△8六飛)を直接受けるのではなく、「△8六飛としてきたら反撃しますよ」といった要領で間接的に相手の狙いに対処しているのがわかると思います。振り飛車党をしていると、しばしばこのように「無理に受けるのではなく相手の手に乗ってさばく」という考え方が重要になってくるのでぜひご記憶ください。

【第4図からの指し手④】

▲5五角 △7七桂成 ▲同桂 △8六飛

▲6五桂(第5図)

第5図

 第4図でのもうひとつの正解手が▲5五角で、これも同様に受け流しの考え方に基づいています。しばらく進んだ第5図は先手成功で、次に▲1一角成の香取りと▲5三歩成の筋、また手に乗って▲6八飛と飛車をさばく手も用意して指し手に困りません。すぐに△8九飛成と飛び込んでくれば▲8八飛のぶつけも有力ですね。

 最後の▲6五桂も大事なところで、代えて▲8八歩などと縮こまるのは△5七歩▲同金△5六歩(▲同金なら△6七角)と応戦されて攻めの手番を逸します。

 見てきたように、振り飛車対居飛車の対抗形においては「角交換から△8六飛」という仕掛けが頻出します。振り飛車党としてはこの飛車走りを直接受けるだけでなく、相手の狙いをあえて指させてさばきを目指すという指し方があるということを知っていただければと思います。

 

執筆者 

水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)

日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。

ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。

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