振り飛車党の頭の中2

2026-05-18更新
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監修
北尾まどか
日本将棋連盟 女流棋士二段 / 株式会社ねこまど 代表取締役
「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに2010年に株式会社ねこまどを設立。将棋教室や将棋イベントを開催している。 こどもや初心者に将棋を教えるための教材としてして開発した「どうぶつしょうぎ」で、園や学校・学童などの教育機関にて普及活動を行っている。

「舟囲い=薄い」の幻想

 

 振り飛車党の考え方について学んでいく本シリーズ。今回は囲いの堅さの差について考えてみましょう。囲いの堅さは「舟囲いよりも美濃囲いの方が堅く、また美濃囲いよりも居飛車穴熊の方が堅い」というのが一般的な定式。式で書くなら以下の通りです。

 舟囲い<美濃囲い<居飛車穴熊

 このことを踏まえて、まずは基本となるさばき合いについて見てみましょう。

第1図は△5三銀まで

【第1図からの指し手】

▲6七銀△7七飛成▲同桂(第2図)

第2図は▲7七同桂

 四間飛車対右銀急戦の基本的な対抗形から、角交換をした直後の局面。ここは強く▲6七銀と飛車交換を迫ってさばきを目指すのが定跡となっている好手です。飛車交換を果たした第2図で先手は自陣の守りに憂いがなく、▲7一飛~▲8一飛成といった要領で攻めに専念すれば自然と指しやすくなりそうです。

第2図からもうすこし進めてみます。

    △7六歩 ▲同銀△7九飛

▲6七銀△9九飛成(△7七飛成は▲6六角)

▲8三飛△4四角 ▲8五桂△6六香

▲同銀 △同角  ▲5九香(第3図)

第3図は▲5九香まで

 銀を持たれた局面は△3九銀の狙い筋があるだけに怖いですが、しっかり▲5九香と埋めた形が鉄壁の堅さ。後手からは有効な攻めがないのに対し、先手は▲8一飛成のあと▲7四歩~▲7三歩成のゆっくりとした攻めが間に合いそうで振り飛車有利は疑いようもありません。

 このように、美濃囲い対舟囲いという構図において、飛車角総交換の展開は双方の囲いの堅さに差があるために振り飛車側が指しやすくなることが多いようです。なお戻って第1図から代えて▲7五銀と力技で突破を目指すのは、△8八角(参考図)と飛車を攻められると困ります。

参考図は△8八角まで

 飛車が取られると振り飛車は7五の銀まで失う格好で、こうなるとさばきは失敗してしまいます。「おたがいの飛車が向かい合っているとき、その間に駒を挟まれた駒(この場合は先手の7五銀)は弱い」というのは振り飛車戦にも頻出する重要概念ですのでご記憶ください。

■実戦の一場面から

 以上のことを踏まえて第4図をご覧下さい。向かい飛車対居飛車の対抗形で、いま振り飛車側が▲3八銀と片美濃囲いを完成させたところ。居飛車側をもってどのようにするのがよいでしょうか。

第4図は▲3八銀まで

 実戦はここから△4二金右▲9六歩△2四歩▲5八金左△2三玉▲4六歩△3二銀(参考図)と進んだのですが、後手はチャンスを逃した印象です。

 たしかに居飛車の天守閣美濃も堅いのですが、先手としても手順に美濃囲いが完成して強く戦えるようになっています。以下も難しい戦いが続きましたが結果は中央から戦いを起こした先手の勝ちとなりました。

 第4図からは△8五歩▲同歩△同飛と積極的に飛車をぶつけるのが正しい大局観。対して▲8六歩では元気が出ないので▲同飛と飛車交換に応じるのが自然ですが、△同桂▲9五角△8七飛(第5図)と進んだ局面はどうでしょうか。

第5図は△8七飛まで

 先手陣は次の△6七飛成と△8九飛成、さらには△6五歩の狙い筋が同時には受からず収拾がつかなくなっていることがお分かりいただけると思います。

 一般的には「舟囲いでは美濃囲いに対して飛車交換を挑むのは無理筋」というのが常識ですが、今回は①先手の6九金が浮いていること、②△8五同桂が角に当たること、③6六の銀が角ににらまれて弱いことなどが積極的な飛車ぶつけを後押ししました。

 「舟囲いは堅くないから飛車交換はできない」という固定観念は捨て、柔軟な思考で局面をとらえるようにすると自然と勝率もアップすることでしょう。

 △8五歩▲同歩△同飛に対して▲8六歩と辛抱してくる展開についても見てみます。

【再掲第4図からの指し手】

    △8五歩 ▲同歩△同飛

▲8六歩△8一飛 ▲5八金左△6五歩

▲5七銀△7七角成▲同桂△7五歩(第6図)

第6図は△7五歩まで

 振り飛車党にとって自らの飛車先に歩を打つのが感覚的に受け入れがたいのはすでに述べた通り。第5図の8筋の関係性は「先手の飛車がヨコに動けば△8六飛で後手の飛車がさばける」という一方的な関係にあり(後手の飛車はヨコに動いても問題ない)、これがそのまま形勢の差につながっています。

 第6図から▲9八角には△8七歩!の焦点の歩があり、すでに振り飛車しびれているのです。 

 最後に本譜の進行について軽く触れて締めたいと思います。第7図は居飛車が4四に馬を引き成ったところ。部分的には馬の厚みも大きいのですが、全体としてみると飛車の働きが微妙なところ。

第7図は△4四角成まで

 第7図から▲4五歩△5三馬▲5五歩△同歩▲同角成△5四歩▲6六馬△8五歩に、▲5八飛△8五歩▲5五歩(第8図)と進んだ局面はすでに5筋一帯が争点となってしまい8筋からの飛車先突破は完全に証文の出し遅れになってしまっています。

第8図は▲5五歩まで

 第8図からは△5五同歩▲同馬△5四歩▲同銀といった単純な中央突破の筋が厳しく残り、△8七歩成が間に合っていないのが一目瞭然ですね。飛車のさばきは居飛車・振り飛車双方にとって攻撃成功の分水嶺。うまく戦機を見極めて有利をつかみましょう!

■まとめ

 ・基本的に堅さの比較は「美濃囲い>舟囲い」であり、飛車交換は振り飛車有利に働きやすい

 ・浮き駒がある、囲いが完成していないなどの条件によって居飛車からの飛車交換が成立することも

 ・飛車のさばきで出遅れると非勢に陥るので注意!

執筆者 

水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)

日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。

ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。

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