振り飛車党の頭の中1

2026-04-27更新
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監修
北尾まどか
日本将棋連盟 女流棋士二段 / 株式会社ねこまど 代表取締役
「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに2010年に株式会社ねこまどを設立。将棋教室や将棋イベントを開催している。 こどもや初心者に将棋を教えるための教材としてして開発した「どうぶつしょうぎ」で、園や学校・学童などの教育機関にて普及活動を行っている。

自分の飛車の前に歩を打たない

 今回からは定跡や実戦譜の一場面を題材として、振り飛車戦の中盤戦における重要な考え方について紹介していきたいと思います。最初に紹介する考え方は「自分の飛車の前に歩を打たない」というもの。この原則が成立する理由について考えることで実戦に生かせるようにしましょう。

■振り飛車の理想形とは

第1図

 第1図は四間飛車対居飛車棒銀の対抗形。いま△7二飛と銀取りをかけられたところで、どう対応するのがよいでしょうか。▲7五歩(参考1図)と打ってみたくなる気持ちはよくわかりますが、この手は2つの点で疑問手といえます。

参考1図

 まずは7五の歩に対するヒモが足りていないこと。参考1図からは△同銀▲同銀△同飛という展開が予想されますが、これは無条件に一歩損になっています。さらにこの展開は大駒のさばきが一手遅れている印象で、以下▲6五歩と大駒交換を目指してみても△6六銀(参考2図)と打たれて先手失敗です。

参考2図

 参考2図では角が逃げると△7八飛成と飛車を素抜く手があるため角銀交換の駒損が避けられません。△6六銀に代えて△7七角成▲同飛△同飛成▲同桂という大駒交換になれば振り飛車も指せるのですが…。

 

再掲参考1図

 参考1図を再掲します。この▲7五歩という手はもう一つ、自分の飛車が敵陣に成り込むことができなくなっているという点からも疑問と断言することができます。

参考3図

 参考3図は四間飛車の基本形ですが、ここから6八にいる飛車が敵陣に成り込む手順を想像してみてください。飛車の前は現状、銀と歩という2枚の駒が行く手を阻んでいます。そのうちの銀はナナメに移動することで道を開けることができますが、6六の歩は飛車の前からいなくなるのにかなりの手数がかかるのがわかると思います。

 というわけで飛車の前の歩が取られている状況というのはさばきのチャンスということがわかります。裏を返して、振り飛車を指すうえでは自分の飛車の前に歩を打つというのはまずいい手にならないということを覚えておいてください。

■さばきの手筋

再掲第1図

 第1図に戻ります。ここは▲8八角と引くのが定跡の一手で大駒のさばきが見えてきます。以下△7七歩の焦点の歩は気になりますが、▲同飛△6六角(第2図)とされた局面が次なる分岐点。ここはどう指すのがよいでしょうか?

第2図

 ▲7八飛と引くのは△8八角成▲同飛△7六飛で銀損となって失敗。ここで▲7五歩はありますが、それよりも強く▲6七銀(第3図)と引いて大駒交換を迫る手を指せるとよいですね。

第3図

 第3図から△7七角成▲同角となって飛車は取られてしまいますが、「飛車が自陣で眠っている(さばけていない)くらいならば相手の角と交換して持ち駒に変換したほうがよい」というのも振り飛車党にとっての大切な価値観。「振り飛車」という名前に引っ張られると飛車が大切に思えてしまうのですが、実は振り飛車にとっての陰の主役は角だったりします。

 第3図から△7六歩と変化してくる手は有力ですが、これには▲同飛△同飛▲6六角(参考4図)がスマートな対応。知らないと指せないトリッキーな手順なので頭の片隅に入れておくくらいでかまいません。

参考4図

 第3図からは△7七角成▲同角△2二銀(第4図)が予想される展開。ここでは先手にチャンスがきています。

第4図 

▲6六角打(第5図)と重ねて打つのが厳しい両取り。△7五銀には▲2二角成と銀を取って先手必勝です。

第5図

 この両取りを受けるために後手は△7七飛成と角を1枚抜いてくるよりないのですが、▲同桂(第6図)と取った形は振り飛車の理想形のひとつで文句なく先手優勢の局面です。

第6図

 第6図をあらためて形勢判断すると、駒の損得はなし、玉の堅さは振り飛車有利(美濃囲い>舟囲い)。さらに駒の働きで居飛車の8四の銀と8一の桂が狙われるだけの駒になっていることがわかるでしょうか(たとえば△7三銀には▲7一飛)。

「(飛車交換をはじめとする)大駒交換は基本的に振り飛車有利」といわれることが多いのですが、それはこの「舟囲いよりも美濃囲いの方が堅い」という価値判断に基づいています。第6図からは敵陣に飛車を下ろすだけで自然と勝ちが転がりこんでくるでしょう。

■勝利の方程式

再掲第1図

 振り飛車を指すうえでの理想をまとめると、「自玉が敵玉よりも堅い状態にして大駒交換を挑む」という図式になります。再掲第1図でのイメージでいうと、ここから双方の飛車角同士が総交換になったのが第6図なので、そうなるように手順を駆使するというイメージですね。ポイントとしては、角交換は簡単でも飛車交換をするのはテクニックが求められるので安易に角交換で満足しないように意識してみてください。

 なお、第1図の△7二飛に対しては▲6五歩(第7図)というのもさばきの手筋。これも十分有力ではあるのですが、ここでは△7七角成▲同飛△8八角と飛車をいじめられる展開になってしまうのであまりおすすめできないという結論になります(△6四銀型では最善手)。

第7図

■まとめ

・自分の飛車の前に歩を打つと飛車がさばきづらくなる

・大駒交換は双方の囲いの堅さに差があるなら振り飛車有利

・自陣で使えない飛車は角と交換してもらうのも歓迎

・自玉が敵玉寄りも堅い状態で大駒交換を挑むのが振り飛車の勝ちパターンのひとつ

執筆者 

水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)

日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。

ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。

 

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